ブログ:和顔愛語

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穏やかな人柄を偲んで

 

皆さま、こんにちは。心和寺の住職でございます。

今日は、先日出仕させていただいたご葬儀での、
心に残る一場面についてお話しさせてください。

ご遺族の方と戒名のご相談をしていたときのこと。
故人さまのお人柄をお伺いすると、
ご家族の方がぽつりと、しかし力強くこうおっしゃいました。

「とにかく穏やかな人でした」

その言葉を聞いた瞬間、私は胸の奥に静かな感動を覚えました。
どれほど長く一緒に暮らしてこられた中で、
最初に浮かぶ言葉が「穏やか」というのは、
決して簡単なことではありません。

日々の暮らしの中で、
誰かと過ごす時間が長くなるほど、
感情の波や行き違いが生まれがちです。
その中で、いつも変わらず穏やかであるというのは、
まわりに安心感を与えるだけでなく、
深い慈しみと忍耐、そして優しさの表れだと思います。

穏やかさというのは、派手な美徳ではありません。
声を張り上げることもなく、
自分を大きく見せることもありません。
でも、だからこそ、
ふとした瞬間にその人の存在が周囲を包み込み、
心を落ち着かせてくれる
――そんな不思議な力を持っています。

風が吹いても波立たぬ水面のように、
穏やかに、静かに、
まわりのすべてを受け止める。
そんな在り方こそ、
仏道に通じるものだと感じます。

故人さまもまた、
そのように静かにご家族を見守りながら生きてこられたのでしょう。
ご家族が思い出話を語られる中でも
その穏やかな笑顔がいかに多くの人の心を支えてこられたかが伝わってまいりました。

戒名は、その方の人生を一つの言葉に結晶させるようなものです。
私も一文字一文字に心を込めて、
故人さまの穏やかなお人柄が静かににじむような、
そんな戒名を目指してお作りしました。

後日、その戒名をご覧になったご家族の方から、
何度も何度も
「本当に素敵な戒名をありがとうございます」
「これなら本人もきっと喜びます」
と感謝の言葉をいただきました。

そのたびに、私も胸が熱くなり、
「このご縁に心から報いたい」と改めて感じました。
戒名を通じて、
故人さまとご家族の絆がさらに深まったように感じられたことが、何よりの喜びでした。

人は亡くなっても、
その生き様やまごころは、
言葉や記憶の中にしっかりと残り、
次の世代に受け継がれていくものです。

どうか私たちも、
日々の中で「穏やかであること」を心がけて過ごしてまいりましょう。
忙しさや苛立ちの中でも、
ひと呼吸おいて、静かに、丁寧に人と向き合うこと。
それが、まわりの人の心をそっと温める灯火になるかもしれません。

本日もまた、
そんな優しさを思い出させてくれた故人さまと、
そのご家族に深く感謝いたします。

合掌